分かり合えなくても分かち合う――。HIGH BONE MUSCLE、6thSingle”Prism”を語る

2021年に結成10年を迎えた3ピースバンド、HIGH BONE MUSCLEが6枚目のシングル ”Prism”をリリースする。4人体制から3人体制へ、そしてコロナ禍。ここ数年大きな変化を経験した彼らが辿った10周年前後から今に至るまでの思考、その末にできあがった”Prism”について、フロントマン・鈴木啓に訊いた。

――昨年10周年を迎えられたHIGH BONE MUSCLEですが、実感は湧きましたか?

鈴木啓(Vo/Gt):メンバーがみんな20年以上の付き合いの面々ということもあって10年の実感はそんなにないんですけど、自分たちが置かれている環境とか、周りの空気が変わっていったりとか、そういうので「ああ、10年やってきたんだな」っていうのは周りから感じさせられるところはあったかもしれないです。

――10周年のタイミングでミニアルバム『Anywhere』をリリースされましたが、リリース前後はコロナなどで環境が大きく変わった時期でもあったと思います。改めてどういうアルバムになったと思いますか?

鈴木:『Anywhere』は、どこへでもっていう意味を込めたタイトルで。”どこへでも”というタイトルの曲もアルバムに入っているんですけど、この曲は2017年とかに4人体制から今の3人体制になって初めて書いた曲なんです。3人になって「これからどうしよう」って悩んだ空気とか、「俺たちできるのかな」って思ったときの感情をそのまま書いた曲だったんですけど、コロナ禍に入ってからすごく時代に合ってるように聞こえたんですよね。それで結成10年でなにかリリースしたいってなったときに、”どこへでも”を主軸にして曲を作っていこうっていうのでアルバムを作って。なので、自分たちがバンド続けられるのかとか、やっていけるのかっていうことに向き合うきっかけになった作品というか。それでアルバムを出して、「俺たちやれるわ」って思えた1枚になったのかなと思いますね。

――『Anywhere』以降初のリリースとなる今回の”Prism”ですが、どういった経緯で書かれたんですか?

鈴木:これもコロナがきっかけで、2020年か2021年に冒頭を作りました。コロナ禍で思ったよりイベントやライブができなかったりして、挫折ではないですけど、折れそうになった経験があの時期にすごく多かったんです。でもお客さんを入れたイベントが出来ない中でも無観客の配信をライブハウスで続けていて、見てくれてる人も多くて。あのときって結構配信を渋る空気もあったと思うんですけど、僕らはそこに抵抗がなく、それでも届けられる方法があるならと配信をずっと続けていて。そうやって別の方法でも届けられるんだなと思ったときに、”Prism”の最初のところが書けたんですよね。でもずっとそこまでしかできてなくて、悩んでた曲ではあります。

――それが完成に至ったのにはなにかきっかけがあったりしたんですか?

鈴木:ずっと書きたいなとは思っていて。書こうって本気になって向き合い始めたのが2021年の冬くらいだったのかな。きっかけというきっかけが特にあったわけではないんですけど、俺はなにが歌いたかったのかなっていうのに向き合うところから初めて、ぱっと書き上げたところをもう一回見つめ直す作業からやって書き上げました。

――10周年を経て初のシングルですが、普段とは違う意気込みみたいなのも踏まえられているんでしょうか?

鈴木:4人のときに最後に出したのが『FILMS』っていうフルアルバムで。そこに収録された12曲で、HIGH BONE MUSCLEが次にやりたいことを打ちだしたつもりではあったんですね。なので本当は『FILMS』からの流れで”Prism”があるはずだったんですよ。でもメンバーの脱退があって、一旦見つめ直さないといけなくなった。単純にフィジカル的に1人いなくなって、3人で今までやってたことをやるのか新しいことをやるのかってなったときに、3人で模索しながら作ったのが『Anywhere』で。3人の期間になって4年くらい経った今、ようやく自分らがやりたいこととか、同期のサウンドを今までと違うアプローチで鳴らしてみるっていうのができるようになってきたところですね。『Anywhere』はバンドサウンドの曲が多いんですけど、次はこうしたいんですっていうのを提示できるような曲が”Prism”になったのかなと。なのでHIGH BONE MUSCLEのこれからっていうのを感じてもらえたらと思います。

――歌詞でも最後に〈それを道標に歩いていく〉と歌っていますが、先に進んでいくバンドの思いとも重ねているんでしょうか。

鈴木:特別重ねているというよりは、歌を書くときには絶望のまま終わりたくないという気持ちがあって。悲しいまま終わるより、聴いてもらったあとに希望を持ってもらいたい。聴いている人が泣きやむまで隣にいられるように、その人が「よし、じゃあいこうかな」って思えるまでちゃんとそこにあれるように、最後は気持ちが晴れるようなところで終結してるっていう曲が多いのかなと思います。

――歌詞ですごく印象的だったのが〈ひとりぼっちがふたりきり〉というところでした。

鈴木:家族であろうと他人だなっていうのはずっと自分が感じていることのひとつで。完全に分かり合ったり理解し合ったりはできないし、思ってることなんて分からないじゃないですか。そういう意味で自分以外は全員他人だし、それは寂しいなって思うこともあるんですけど、だから誰かに傍にいてほしいとか思うんだろうし。分かり合えなくても分かち合うというか。ふたりでいてもひとり同士が2人いるっていうのは自分が友達といたりしても思うところはあったので、そういう思いは今までの曲も含めて出てきてるのかなと思いますね。

――そういった、みんなひとりだよねっていう感覚ってそれこそコロナの状況で多くの人が感じたものだったのかなとも思います。鈴木さんにとってコロナ禍でイベントが減っていた期間はどんな期間になりましたか?

鈴木:自分の大切なものがなんなのかっていうのが分かる期間だったとすごく思っています。ライブができなかったりとかしたんですけど、それでも歌ってたりとかギター弾いて曲作ってたりとかしていたし、これはずっと好きでやっていくんだなっていうものが見つかる期間だったのかなと思っていて。自分と向き合う時間はめちゃくちゃありましたね。

――改めて鈴木さんにとってのHIGH BONE MUSCLEの存在ってどんなものですか?

鈴木:そうですね。他に変わるものがない存在ではあると思うし、このバンドでどんどん進んでいって大きくなっていきたいし、出来れば一生続けていきたい。生活とも違うような気もするんですけど、自分といえばというもののひとつ。大切なもののひとつだなっていう認識ですね。

――ありがとうございます。あとは歌詞でもうひとつ思ったのは、晴れ模様と雨模様のどちらも描かれているなと。これは意図するところがあったんですか?

鈴木:自分の曲の特徴として、時系列やストーリーがあるっていうのは意識していて。だから天候にも変化があるのかなって思いますね。あとは、虹っていう言葉を使いたかったんです。絵具って混ぜると真っ黒になるじゃないですか。でも光って混ぜると白くなる。その白い光をプリズムに通すと虹色に広がっていくっていうのが、すごいいいなと思っていて。自分の経験や夢が光として自分の中に入ってきたときに、ぱーっと虹のようなものが広がって、それを道しるべにちゃんと進んでいって、辿り着いたところで輝けたらまた誰かのところに届いて繋がっていくみたいな、そういうイメージで曲を書き上げて。だからさっきの質問にあった、最後まで書き上げることができたきっかけっていうのは絵具と光とで混ぜたときにできる色が違うんだっていうのを知ったことかもしれないですね。多分小学校の理科とかでやる内容だと思うんですけど。(笑)

――音はバンドサウンドだけじゃなく電子音なども多く使われていていますが、プリズムというタイトルや虹のイメージから浮かんだものなんですか?

鈴木:最初から、電子音であったりいろんなパーカッションが鳴ってたり、バンドサウンドの中にそういう要素が加わった音が頭でずっと鳴っていたので、それを落とし込んだ形です。曲名を決める前からああいうイメージでは鳴っていましたね。

――3月31日には下北沢CLUB251(以下251)でリリースイベントが行われます。意気込みはいかがですか?

鈴木:3月31日はHIGH BONE MUSCLEの結成日……というか、2011年3月に結成して、3月31日が初ライブだったんです。3月31日が一応結成日みたいな感じにしているので、毎年その日は何かやってるんですよ。今年はそれがライブで、シングルを出す日でもある。今回呼ばせてもらったバンドは最近仲良くなったバンドも昔からの付き合いのバンドもいるんですけど、どのバンドもコロナを経てちゃんと前に進んでいこうとしているバンドで、これから自分たちが一緒にやっていきたいなと思える人たちです。すごく楽しみですし負けられないなって思いもありますね。

――バンドとしての今後の目標を教えてください。

鈴木:そうですね。バンドで影響力を持てるように大きくなっていきたいとか、大きいところでライブしたいとかフェスに出たいとか色々あるんですけど。渋谷、新宿、下北とか、各場所にシーンがあるじゃないですか。下北にもあると思うんですけど、251にその渦を持ってきたいんですよね。影響力を持ったシーンっていうのをここで作りたいなっていう思いがすごくあって、そのきっかけになりたい。なので3月31日も古くからの仲間とか新しい仲間を混ぜてひとつの渦を作りたいですね。

――下北沢の中にもいろんなシーンやいろんな雰囲気の場所があると思うんですけど、それをひっくるめて下北沢ってどういう場所だと感じていますか?

鈴木:僕らは小さいころからずっと世田谷に住んでいるので、下北は近所というか。もちろん音楽をやり始めてからはライブハウスがある場所っていう感覚ではあるんですけど、そうなる前から遊びに来たりとかしていて、近所で栄えているところと言ったら下北だったんですよね。いろんなカルチャーとかファッションがあったり、いろんなアーティストがいる街ではあると思うんですけど、自分にとっては当たり前にあった場所というか。違和感なく自分がいられる場所っていう感じですね。

――今までいろんなところでライブをしていますが、下北沢のライブハウスで演奏すると気持ちがほぐれたりとかもするんでしょうか。

鈴木:バンドが下北沢から始まったっていう意識があるので、下北沢でライブをするときは逆に背筋が伸びるというか。ここでやるからには、よりしっかりやろうという気持ちになりますね。

<written by 村上麗奈>


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